もう一人の妹、エリザベラの反応は、別にどうということもなかった。
 たまたま他の用事があってリュウキースが彼女の部屋に行ったときに、
 「御結婚が決まったのですって?」
 と聞かれただけである。
 「うん、実はそういうことになった」
 「そうですの。
 …大変ですわね」
 一瞬の間が気になるにはなったが、それを追及しても仕方ないので「まあね」とだけ返した。
 「エルメンリーアは知っているんですの?」
 「うん。誰が喋ったのか知らないけど。おかげで大変だったよ」
 「お兄様になついていますものね」
 「その調子で今度来る僕の妃とも仲良くしてくれるといいんだけど。色々…エルメンリーアの機嫌にかかっているからね」
 「そうですわね」
 「エリザベラも気をつけてくれると嬉しい。一応、君の義姉になるとはいえ、年は君よりも下なんだし」
 「ええ」
 エリザベラはにっこり微笑んだ。この妹は、年を重ねるごとに美貌がじつに際立ったものになっていく。父王や母妃が臣下に遣るのを惜しんで今日まで独身であるのも、仕方ないと思われた。
 一体、この妹の隣に並べるのはどんな男だというのだろう。
 「お兄様も、大変ですわね。本当に」
 そんなリュウキースの思考を知ってか知らずか、ゆっくりとエリザベラは言った。

 

 母のメグネットの場合。
 リュウキースを自室に呼びつけて、
 「そちらへお座りなさい、リュウキース」
 ときた。
 母の前では従順なふりをしているリュウキースは、大人しく彼女が指したソファに座る。
 ちらっと周りを一瞥する。
 メグネット付きの侍女はベテラン…と言うと聞こえがいいが、つまりはトウが立った女が多いので、見てもあまり面白くなかった。メグネットが新参の者を好まないのと、若い娘にありがちな軽率な行動を嫌うからである。
 「リュウキース。今日、エルスの王都からアリスリィナ王女が出発したという報告がありました。順当に行けば、3ヶ月後には着くとのことです」
 メグネットは真面目くさって言った。リュウキースは微笑んで、そうですか、とだけ言う。
 「これでもう後戻りは出来ませんよ。分かり
ますね」
 「後戻りって、母上…」
 「もともと、あなたがどうこう出来る話ではないけれど。とにかく、相手の王女が来てしまうのですから。ね?」
 「分かっていますよ。私に異存はありませんし、アイルーイの為にいい話だと思っています」
 ─ 覚悟くらい出来てるよ、母上。
 「ならばよいのですけれど。あなたも妻を持つ年になったのです。よくわきまえて、くれぐれも帰るところのないアリスリィナ姫に悲しい思いなどさせぬようにするのですよ」
 リュウキースはやっと思い当たった。なるほど、正妃は大事にしろということか。母上も、妾妃にはやきもきさせられたからな。
 今からそんな心配をするとは、御苦労なことだ。
 「はい、母上」
 心の中ではともかく、顔はいたって真面目に、リュウキースは返事をしたものだった。