〜前回のあらすじ〜
夫となったセルジオ王子と寝る前に話したおかげで、彼がとても優しいということを知ったマリア。
だが、あまりに疲れていたので会話の途中で寝てしまった。
これからが彼女の新しい生活の始まり。
5.
翌朝。
朝食はメルメ1世、セルジオとともに摂った。「家族揃っての食事」はよほどの場合でないと経験したことのないマリアは初め緊張したが、親子の気さくな会話をきいているうちにだんだん慣れてきた。気分も楽になる。
「姫はやはり、お一人で摂られる方が好きだろうか。私はどうも…王なんて身分になったのは最近のことなもので。すまない」
「そんなことありませんわ、陛下」
「姫はいつも、1人で食事をしていたのか?」
セルジオが不思議そうな顔をする。
「高貴な姫君というのはそういう場合が多いんだよ、セルジオ」
「いえ、一応人はいましたわ。お母様と、給仕がたくさん」
マリアは猫のようにいたずらっぽく笑う。
今、3人には給仕が1人ずつしかついていない。アイルーイでは用もないのに、もっと沢山いたものだ。
「でも、お食事中にこんなに楽しそうに話してらっしゃるなんて、うらやましいですわ」
「それはよかった」
メルメ1世は大らかに笑う。マリアも、王が自分に対してとても気を遣っているのを分かっていたので、にっこりと笑った。
「そうだ、姫。あとで昨日の話の続きをしよう」
セルジオが割って入る。
「昨日の話?」
「うん。途中で寝てしまったじゃないか」
「………ああ」
思い出すのにとても時間がかかった。何しろ、いつ寝たかも覚えていないのだ。
「何だ何だセルジオ。姫から何を聞いたんだ?」
メルメ1世が興味深げに身を乗り出してくる。
「ん?…父上には内緒だ」
「そりゃないだろう。私はお前たちの保護者だぞ」
「関係あるもんか、僕だってまだ全部聞いていないものを、父上に聞かせるわけにはいかない」
「なぁーに生意気な。城下でお前の秘密をバラすぞ」
「汚いぞ父上!」
「何とでも言え」
テーブルを挟んで言い合う親子を見て、マリアはとても可笑しくなった。ので、黙って観察する。
「姫、食べ終わっただろう?こんな父上はほっといて、部屋に戻ろう」
セルジオがマリアの袖を引っぱった。と、メルメ1世が、
「わーはーは、セルジオ、お前はこれから歴史の勉強と馬術の訓練が待っているぞ。早くお前だけ行け」
「今日ぐらいいいじゃないか!気になるんだ!」
「ダメだダメだ。私もな、つらいんだぞ?新婚ほやほやの息子に、花嫁との甘い時間をあげたいなあとは、心から!思っているが」
「嘘つき!」
「如何せんお前は未熟者であーる。だからして、精進は怠ってはならない。これも親心だ。うんうん」
「僕は未熟者なんかじゃないッ」
「何を言うか、お前が自分で宣言しただろ、昨日」
「…あれはっ」
「分かったらさっさと行け、可愛い息子よ。いやー残念残念。王位が欲しけりゃ頑張ってこい」
「くそおっっっ!!」
言い負かされたセルジオは、素敵な捨て台詞を吐いて食卓を立ち、走っていった。と、部屋の入り口で一度くるっと振り向き、
「姫!あとで絶対絶対、話そうな!」
「はい」
笑いを懸命にこらえながらマリアがうなずくと、今度こそセルジオは走って行ってしまった。
「さて、マリア姫」
向き直ったメルメ1世の顔から、笑いは消えていた。
「少ししたら、私の部屋まで来ていただけるだろうか」
「…?はい」
マリアは少し不安に思いながらもうなずいた。
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