Elun Vaicha(Prince Charming)

 

 200年あまり続いたアイルーイ王国。現国王はシトラ6世。まあ治安はよく、平和な国である。強いて言うならば貴金属、宝石類の産地であるアイルーイ山脈が王都から遠いため、盗難、強盗事件も少なくないという位だし、それは街道を整備したり護衛を強化したりすることで、今のところは何とかなっている。
 作物はというと「双子のお転婆娘」と称されるアスト川、ルイト川のおかげで水にも困らず、実りは豊かだった。
 そのアイルーイ王国の次国王、つまり現王太子はロイ・リュウキース・アイルーイ。
 正妃メグネットの長男である。
 母ゆずりの美貌と才覚に恵まれ、他の兄弟たちを寄せ付けもせずに王太子の地位を揺るぎないものにしている。人望も篤い。特に、城下の乙女たちからの支持は圧倒的なものがあり、ついたあだ名が「エルン・ヴァイツァ」、古い言葉で「夢の王子」。
 ─ しかし、どんな人間にも裏と表はある。
 その、裏の話。

 

 1.まず、表は?

 とりあえずリュウキースはモテた。ひたすらにモテた。そもそも王子という身分には女性吸引装置がついているが、リュウキースはその上美貌と頭脳に恵まれている。
 淡い金髪。鳶色の、切れ長の瞳。細身かつ長身で、優雅さも持ちあわせている。昔、ハイに通っていた頃に冗談半分で友人達と女装して校内を歩いたところ、あまりの美人ぶりに上級生の男に一目惚れされ、てんやわんやの大騒ぎになったことすらあるくらいだ。
 頭脳の方の証明としてはとりあえず、国内で300人しか入学を許されない王立中等賢者学院(ジュニア)、更に150人しか入学を許されない王立高等賢者学院(ハイ)に、一切の裏取引なしで入学を許可されたこと、成績は20番以内を守り続けたことあたりで事足りるだろう。
 と、なったらそこらの女性が放っておくはずがない。街を歩けばあちこちから声がかかり、誕生日ともなれば贈り物の山。リュウキース付きの侍女は希望者が多すぎて、常に欠員待ちの状態だ。
 更に、この王子は身内にも受けがよかった。父王からは王太子として申し分ないと思われ、母妃からも頼りにされている。
 同腹の兄弟としては妹が2人いるのだが、両人ともと仲が良い。特に上の妹のエリザベラは、人を寄せつけるのが苦手なのに、リュウキースにはややうちとけて話すくらいである。
 下の妹、エルメンリーアに至ってはもうリュウキースが大好きで大好きで仕方なく、よくひっつかれている。彼女がまだ小さい頃、学校でリュウキースが人気者だと聞き、嫉妬のあまり学校に行くなと泣きわめきながら、あたりの物を手当たり次第投げ散らかして大騒ぎになったこともあった。
 かくなる王子だからして、当然年頃の娘を持つ貴族、富豪の親たちは玉の輿を狙う。嫌だという娘もいない。
 そんなわけでシトラ6世もメグネット妃もお妃問題に困り果て、とある決断を下した。