一年の約束 〜セルジオからマリアへ その1〜
大好きなマリアへ
元気ですか。少し風が冷たくなってきたような気がするけど、風邪とかひいていないかな。
僕は無事、サッカルー公爵のところに着きました。
公爵は…何というか、熊みたいな人です。マリアが見たら、逃げるかもしれない。父上よりもっとがっしりしてて、びっくりしました。僕は彼を「公爵」と呼んではいけなくて、「ハイトさん」と呼ばなければなりません。なんだか、位とかそういうものがあまり好きではない人のようです。
家族はまず、奥方のシュレイン。華奢な人で、ハイトさんと並ぶとまるで折れそうな印象を受けます。おっとりとしていて、あれこれと僕の世話をやいてくれます。話に聞いていた、マリアの母上と似た印象を受けるんだけど…違うかなあ?
それから息子が2人います。ティレックとシードル。ティレックの方が兄です。
どちらも僕より年上です。ティレックが20、シードルが17。
仲がいいのか悪いのか、良く分からない兄弟です。2人とも競争心が抜群で、お互いに負けないように張り合ってます。剣術から馬術、魔術、語学、商業まで!
僕には兄弟がいないけれど、兄上がいたとしたらきっとこの2人のような感じなのかな、と思う。
ティレックの方は金髪で、シュレインに似たようです。がっちりした、というよりかは鍛えられた、鞭のような身体です。無駄な肉は一切なくて切れ味の鋭い人です。
シードルの方は、完璧にハイトさんの息子です。…熊です。マリアが見たら逃げる…と思う。
とにかく、僕は2人から色々教えてもらうことが多いです。
そして最後に、フェルディオーレ。…長いだろ?マリアの妹の、「エルメンリーア」にも匹敵する長さの名前です。女の子。まだ10歳です。
髪は真っ黒で、ふわふわしています。目はハイトさんと同じ、華奢なグリーン。でも、大きくてくるくると良く動くところが、マリアに似ています。
呼びにくいので、「フェル」と呼んでいます。マリアは、エルメンリーア姫のことを何て呼んでいたのかな?
サッカルー公爵の家は、砦の中にあります。セステアの城より…何て言ったらいいのかな。もっと「敵が攻めてきたときのことを考えて」造ってあるような感じです。
多くの兵士達がいて、すごく雑多なところです。マリアを連れてこなくてよかったと思う。マリアは綺麗だから、セステアにいるときよりもっと多くの人に囲まれてしまうからね。
その武骨な砦の中の、ほんの一画に、僕に与えられた部屋があります。
当たり前だけど、城よりずっと狭い。おまけに、寝るのも着替えるのもこうやって手紙を書くのも、全部この部屋でするんだ。
だからこの部屋にはベッドとタンスとテーブルと椅子と本棚が、いっぺんにあります。
何となく慣れないんだけど、普通はこれが当たり前らしい。
最初驚いた僕をみて、ティレックとシードルが笑いました。…僕は二度と、部屋についてあれこれ言うことはやめようと思う。
とりあえず幸いなことに、この部屋には窓があります。南向きの窓。
マリアの方を見ることが出来るよ。
そして、砦の中でも割合高いところにあるので、近隣の景色が良く見えます。
ここからは森と、草原と、川と、近隣の家々、畑…それから、空がいっぺんに見えます。
雄大な眺めです。
いつか、マリアにも見せてあげられたらと思う。
父上が僕をここに寄越した意味は、少し分かったような気がする。
マリアと離れているのはやっぱり淋しいけど、僕はここで頑張ろうと思います。
僕が帰るまでの間、せめてマリアが独りぼっちで泣かないように、いつも祈っています。
では、また。
クスコの国境砦にて セルジオ