一年の約束 〜マリアからセルジオへ その12〜
もうすぐお帰りになる、セルジオ様へ
セルジオ様がまだ砦にいらっしゃるうちに着くように、といつもより少し早めに書いています。
出立なさったあとでは、ひょっとしたら読んでいただけないかもしれませんものね。
無理に書かなくてもいいのかな、とは思いますが、でもやはり書いておきたいのです。
こうやって手紙のやりとりをするのも、もうない(はず)ですから。
やっぱりそちらは暑いんですのね。しかもこちらにいらしたときよりも、体を動かすことが多いのでしょう?お水をちゃんと飲まれていらっしゃるならいいのですけど…。倒れないようにして下さいませね。
こちらも急に暑くなったので、私も体調をくずさないように気をつけています。お帰りになった時に調子が悪かったりしたら嫌ですもの。
きちんと、万全の体勢でセルジオ様をお迎えする気でいますわ。
お父様はこの暑さが少しこたえてらっしゃるらしく、よく侍従に訴えています。
「ああ、暑い。あまりに暑い。政務なんかやっていたらきっと倒れてしまう。王がそんなことになったら皆困るだろう。少し休まなければいけないな」
「…陛下。昨日も同じことをおっしゃられましたが大丈夫でした。今日もきっと大丈夫です」
「何!は、薄情な…。あんまりだ」
「陛下」
慣れている侍従が少し力を入れて、『陛下』というと、お父様は決まって私に訴えてきます。
「…マリア、これほど虐げられている王は珍しいだろう。うう」
「お父様」
私も、侍従の真似をして言ってみます。ここで笑っては台なしなので、あくまで真面目な顔をして。
「…あーあ。いいんだ、セルジオが帰ってきたらこんなめんどくさいことは早く押しつけよう。そうだ、そうしよう」
などと言いながらさも傷ついたような顔をして、政務に戻られます。
…本当は暑さにこたえてらっしゃらないかもしれません。
全く、お父様ったら。
…少し、穏やかでない噂をお聞きしました。
私の母は妾妃でしたし、王家である以上そういったことはよくある話で、こちらも例外ではなかったというだけですけれども。
それでも…少し、複雑な気分です。
でも、今はとにかく、お帰りになるのをお待ちしています。
あと少しで、セルジオ様にお会いできる。
それが、今の私の支えです。
お帰りになったときに恥ずかしくない自分でいようと思います。…それから、噂に対しても…あまり見苦しくない自分でいようと、思います。
王太子様のお帰りを心待ちにしている王太子妃 マリア