一年の約束 〜マリアからセルジオへ その10〜

 

 

 大事な大好きな、最愛のセルジオ様へ


 御機嫌いかがですか、セルジオ様。
 …なんて、書出しは大人しくしてみましたが、やはり素直に書こうと思います。
 誕生日プレゼント、届きましたわ!!
 セルジオ様ったら…セルジオ様ったら…………本当に、もう…!!
 ありがとうございます。本当に嬉しかったです。
 …なんでこういう時に限って上手く書けないのでしょうね。先ほどから書く順番も言葉もめちゃくちゃですし、ちっとも気持ちを伝えきれません。
 でもでも、本当に嬉しかったんですの!セルジオ様からの、薔薇!!
 送って下さった時はどうだったか分かりませんけど、こちらについた時にはそれは可愛らしい、深いピンク色の花を一輪だけ、つけていましたわ。
 それと…添えてあったお手紙に挟んであった、「冬の薔薇」の花びら!
 私が嫉妬したことで、気を遣わせてしまって申し訳ないなと思った反面、すごくすごく嬉しかったです。だってこれで私も、セルジオ様と「冬の薔薇」を観たことになりますもの!
 ああ…もう、セルジオ様、あなたという人はどこまでこの私の心をとらえて離さないおつもりですの?全く、かないませんわ。

 

 …気を落ち着けて。
 誕生日に私が何をしたかということをお話しますわね。
 街へ行ったのかと思われましたでしょうけど、そうではありませんの。
 何をしたかと言いますと。
 まず、魔術を教えていただいて、剣を持たせていただき、それから馬に乗せていただきましたの!
 誕生日の朝、お父様に告げたときの面食らった顔を、セルジオ様にもお見せしたかったです。
 「…マリア…悪いとは言わない。悪いとは言わない、けど…それ3つ全部、やるつもりなのかい?」
 「勿論ですわ。お父様」
 私はすまして答えました。
 「…いや、しかし…」
 「たいがいのことは叶えて下さる、と言ったのはお父様ですわ」
 「…街に出たい、とかそういうことじゃないのかい?」
 「そんなことはもう先日やりましたもの」
 「…」
 お父様はいや、うーん…とかおっしゃってましたが、とにもかくにも私のしたいようにさせて下さいました。
 先生は、それぞれセルジオ様についてらした方々です。懐かしいでしょう?
 まず、魔術は基本となる「衝撃」を教えていただきました。
 アイルーイに居た頃、国立中等賢者学院や高等賢者学院に通っていた兄や妹は学校で魔術を習っていたようですが、私はそんな機会もなかったので、魔術を使ったのは本当にこれが初めてでしたの。
 1,2時間程教えていただいて、やっと練習用の的にヒビを入れることが出来ましたわ。
 先生が見せて下さったお手本では、板が粉々になっていましたのに…やはりそう簡単にうまくはいかないものですわね。
 それから、剣です。
 一番軽い木刀を持たせていただいて、持ち方とか姿勢とかから教えていただきました。
 素振りだけであんなに大変だとは思いませんでしたわ。一番最後に、セルジオ様が持つような真剣を持つだけ持たせていただきましたが、吃驚しました。あんな重たいものを持ってセルジオ様は自由自在に動けるなんて………本当に、驚くばかりでした。
 魔術と剣術だけで、正直もうへとへとだったのですけれど、やはり自分で決めたことでしたのでちゃんと最後には馬に乗りましたわ。
 馬に乗る、と言っても正直またがっただけです。馬丁がゆっくりとひいてくれたので、私は馬の背に乗って落ちないようにしっかり捕まっているだけでした。
 こればかりは相手(馬のことです)のいることですから、そう一朝一夕にというわけにはいきません。
 セルジオ様やお父様がなさっているような遠乗りがやりたければ、ちゃんと毎日馬に会うところから始めないといけないようです。
 馬の背に揺られている間、とても風が心地よかったです。お城の裏手にある広い馬場はかなり遠くまで見渡せました。
 馬の背から見ると、景色って違うように見えますものね。
 新しい景色を見ながら、「ああ、セルジオ様はこんな景色を風と同じ速さで見ていらっしゃるのだ」と思ったり、「お帰りになったらまた一緒に馬に乗せていただきたいな」と思ったり。
 そんな風にセルジオ様のことばかりを考えていた誕生日でした。
 お父様からは、「誕生日にこれだけ自分から疲れることをしようという人も珍しいよ、マリア」と半分諦めたように言われました。─ そうでしょうか?
 とにもかくにも、そういうわけでマリアは二十歳になりました。
 来年の誕生日は、セルジオ様のお側で迎えたいです。
 

 最後に。
 誕生日プレゼント、本当に本当に本当に、ありがとうございました!

 

二十歳になってしまった王太子妃 マリア