一年の約束 〜マリアからセルジオへ その1〜
大好きなセルジオ様へ
無事におつきになりましたかしら。
お父様は、「そろそろ着くと思うよ。着いても着かなくてもハイトから知らせがあるはずだから、そんなに気をもまなくても大丈夫だよ」とおっしゃいます。
でも、ねえ…。心配になりますわ。私には、ただ待っているだけしか出来ないんですもの。
セルジオ様が慣れない長旅をなさってるのかと思うと、それだけで心が痛くなります。
昼間はまだ暑いとはいえ、朝晩はやはり冷えますもの。お風邪など、召してませんか?
お城は、淋しくなりました。
セルジオ様がいらっしゃるのといらっしゃらないのではこんなに違ったのか、と皆がびっくりしています。
お茶の時間は、今ではお父様と二人きり。
お話することは、やはりセルジオ様のことです。
お父様はセルジオ様が大事で大事で仕方ないんだな、といつも思います。…本当ですのよ。
多分、私よりお父様の方が無事セルジオ様がサッカルー公爵のもとに着いたかどうか、気にしてらっしゃると思います。
でもね、私には、
「ハイトがどんな人かって?ああ、可哀相だからあいつの前では言わなかったんだが…あいつはね、熊だよ。会った瞬間セルジオが食べられないか心配だ。死んだふりをすることを教えておくのを忘れてたが、ちゃんと出来ているだろうか」
なんて意地悪をおっしゃるんですわ。ひどいと思いません、セルジオ様?
熊って、全くどういうことでしょう。想像がつきませんわ。
ねえ、サッカルー公爵って、どんな方でした?
セルジオ様が頑張っていらっしゃるのに私一人、ぼやぼやするわけにもいきません。
何かやることを探そうと思います。
さしあたり、昨日から歴史の勉強をきっちり始めました。
私が一番好きなことですもの。
セルジオ様と一緒にやっていた時とは少し違って、先生に教えていただくのではなく、先生の助けのもとで、自分で色々と調べながら勉強しています。
色んなことを発見しましたの。お帰りになったらあれやこれや、お話することがもう沢山溜まりましたわ。
帰ってらしたらどうぞ、お茶の時間と寝る前の時間は、マリアが一時たりとも無駄にしないことを、御覚悟下さいませ。
お帰りはまだまだ遠い…ですが。
マリアは頑張ります。
セルジオ様が帰ってらした時、笑ってお迎えできるような立派な人間になろうと思っています。
クスコの王妃になるんですものね?(私を、王妃にして下さるんですのよね?)
セルジオ様もどうか身体にお気をつけて、つつがなく日々お過ごしになられますよう。
いつまでもあなた様の マリア
P.S. 大陸暦254年、ドラゴンが目撃される。聖域に向けて飛び立ったことから、ドラゴンには聖域の壁を打ち破る力があるとの憶測がされる。証拠は現在も見つかっていない。それ以降ドラゴンの目撃情報も、ない。
…ここで「飛び立った」ドラゴンの背に乗せてもらえたら、セルジオ様は何日でマリアのところに帰って来られるでしょうか?
では、また。