一年の約束

 

 5.

 マリアは、城の外に降る激しい雨をぼんやりと見つめていた。
 もう3日もこんな天気だ。
 セルジオが帰ってくる大体の日は知らされていたのだが、その通りには到底帰ってこられなさそうだった。
 どこかの街で、セルジオもやはりこんな風に雨を観ているのだろうか。
 早く会いたいという気持ちと、会って嫌なことを聞きたくないという気持ちとをマリアは行ったり来たりしていた。
 殊に最近、こうやって一人で夜を迎えるといつも不安定になる。
 ─ いつから私は、こんなに気弱になったのかしら。
 アイルーイに居た頃は、自分は二番目で当然だった。だがクスコに来て、王太子妃という一番目の地位をもらって…贅沢に慣れたのだろうか。
 ─ でも。
 例えばセルジオ様にもう二度とお会いできないとしたら、自分はとても淋しいだろうし。
 セルジオ様をどう思っているか、と訊かれたら間違いなく好きだと答えるし。
 …だとすれば。
 「頑張らなくては」
 この1年、何度も自分に言い聞かせた台詞を、マリアは呟いた。
 セルジオ様がどんな決断を下されても、傍にいられないよりは格段にいい。二番目というポジションに戻っても…それでも、多分耐える方がましなのだろう。
 だとしたら、どんな決断にもついてゆける強さが欲しかった。
 ぼんやりと、1年前セルジオが出立する前の晩にしたキスのことをマリアは思い出していた。
 あれは、自分は1年間遠くに離れていてもそばにいる時と変わらずセルジオを想い続けること、セルジオに負けないように自分も頑張って成長すること ─ を自分に誓った覚悟の儀式だった。
 セルジオに伝わったかどうかは分からない。
 あの時セルジオが何を考えて自分と唇を重ねていたのかも。
 今キスをしたら、自分は何を思うのだろうか。
 「逢いたい…」
 それだけは確かだった。マリアの頬を、柔らかな涙がそっと伝った。
 …涙を自覚した時、マリアははっとした。
 ─ 寝よう。
 「早く寝よう。余計なことを考える前に。寝たらそれだけ時間も早く経つし、時間が経てばちゃんとセルジオ様も帰っていらっしゃるわ」
 マリアは早口で言うと、さっさとベッドに向かった。声をあげて泣いたりしたくなかった。
 ベッドに潜り込んで、ぎゅうっと目をつぶる。
 ─ 早く早く、帰っていらして。セルジオ様。