一年の約束
その8
もうそろそろ、サンルームの窓を開けてお茶をしてもいい季節になってきた。
「気持ちのいい季節になって来ましたわね、お父様」
「うん。あっという間に緑が多くなってきた。いい季節だね」
「風も暖かいですしね」
にっこり笑ってマリアはお茶菓子を口にする。今日のお茶菓子は香ばしいスコーンだ。
「遠乗りしたら気持ちよさそうだなあ」
ごほん、と傍らにいた侍従が咳払いをした。言い出したが最後、本当にやりかねないメルメ1世を知っているからだ。
「…ちょっと言っただけなのに…」
「お父様、だって本当にやりかねませんもの」
「今すぐにとは誰も言ってないじゃないか」
「そうですわね」
「…」
そう素直に返されるとどうしようもない。
メルメ1世はお茶を一啜りしたあと、
「そういえば、もうすぐマリアの誕生日じゃないか」
話題を変えた。
「ええ」
マリアはちょっと淋しそうな顔をする。
「嬉しくないのかい?マリアの年だったら、まだ嬉しいだろう?」
「嬉しくないわけではありませんけど。去年から比べてどのくらい成長したかしら、と思うと何だか複雑で」
「…マリアは真面目だなあ」
「だってセルジオ様は一生懸命修業なさってるのに、私は…私も、頑張ってはいるつもりなのですけれど」
「マリアは頑張ってるよ」
メルメ1世は笑った。
「マリアの誕生日はどうしようかな。何がしたい?」
「え?」
マリアは、その猫のような目を見開いた。
誕生日にしたいこと。
「したいこと、って…」
「たいがいのことはかなえてあげるよ。せいぜい我儘を考えておくといい」
メルメ1世はにやりと笑った。
「…」
マリアはにっこりと笑った。メルメ1世の挑戦を、ばっちりと受けるつもりだった。