一年の約束

 

 その7 

 セルジオはその日、フェルディオーレに連れられて、「冬でも薔薇の咲く、秘密の場所」に連れていって貰えることになっていた。
 正直、どうしても見たいというものでもないが、せっかく彼女が案内してくれるというのだし、マリアへの手紙が面白いものになるかもしれないという前向きな考えで、セルジオは行くことにしたのだった。
 支度をして玄関の方に降りてゆくと、階段にちょこんと座っているフェルディオーレの頭が見えた。
 彼女は家族の誰かと出かける約束をすると、大概一番先に支度を終えて、こんな風に階段に腰かけて待っている。
 「フェル」
 セルジオが呼びかけると、彼女は振り向いてにっこりと笑った。

 

 馬を駆ってかの地に向かう。あいにくの曇天だったが、まだ雨や雪には祟られずに済んでいた。
 フェルディオーレの指示通りに馬を駆っていたセルジオは、途中で気づいた。
 「…フェル…もしかして、レストカの領土に向かってない?」
 「もしかしなくても、そうよ」
 「い、いいの?」
 「だから内緒なの。お父様に知れたらただじゃすまないわ。だからセルジオも、絶対に内緒よ」
 「…」

 

 馬で15分ほど駆けただろうか。深い茂みの入り口で、馬を止めた。
 「ここからは歩いて行かなきゃいけないわ。馬は無理ね」
 「…大丈夫なの?」
 「大丈夫。通りやすいようにティレック兄様が道を作っておいてくれてるはずよ」
 馬を目立たないところにつなぎ、セルジオはフェルディオーレのあとをついて茂みの中に入っていった。
 色んな草や木が生い茂っているが、よく気をつけてみると人一人がやっと通れるくらいの道が出来ている。
 「良く見つけたね、こんなところ…」
 「ふふふ」
 フェルディオーレはちょっと得意気に笑った。
 何とか服をひっかけないように気をつけて進んでいくと、不意に少しだけ開けたところに出た。
 薔薇が何輪か頼りなさそうに咲いている。
 「ちょっと遅かったわね」
 フェルディオーレは残念そうに言った。
 「季節が逆になって咲くから、そろそろ終わりだったんだわ」
 「でも、綺麗だよ」
 赤と黄色のバラだった。冬の最中に、夏を思わせるその2色の薔薇が咲くというのはとても妙な気がして、セルジオはちょっと笑った。
 「ならよかったわ」
 「…それにしても、ここはレストカの領土なんだろ?誰かに見つかったら…」
 「大丈夫よ、誰も来たことないもの」
 カサリ。
 フェルディオーレの言葉に抗議するように、背後で茂みが鳴った。