一年の約束
その6
その日、マリアはいつもより早く目が覚めた。
前から決めていた「お休みの日」である。
何をするか、随分あれこれと考えていたので、やりたいことは沢山あった。
1日で足りるだろうか。少し不安になりながらも、マリアは起きた。
朝食の時間は、いつもと変わらない。これを変えてしまったら、色んな人の仕事時間に影響が出ることをマリアは知っていた。
それに、いかな「お休みの日」とはいえ、朝食はやはりメルメ1世と一緒に摂りたい。
というわけで、マリアはいつものようにメルメ1世と向きあって朝食を摂っていた。
「マリア、そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?今日はどこへ…」
「秘密ですわ、お父様」
にっこりとマリアは押し切った。
「…どうしてもかい?」
「どうしてもです」
「…この父には話せないのかい?」
「帰ってきたらお話致しますわ」
「ヒントだけでも」
「駄目です」
「…マリア…セルジオの悪い影響を受けたんじゃないか?冷たいぞ」
「そんなことありませんわ」
「ちょっと。ほんとに、ちょっとだけ教えてはくれないのか?」
「駄目ですってば、お父様」
懇願する様子が余りに可笑しくて、マリアはつい笑ってしまった。回りの給仕や執事たちは、必死に笑いをこらえている。
「可愛い娘にもしものことがあったら、大変ではないか。な?」
「大丈夫です」
「……………」
「ちゃんと、日が暮れる前までには帰ってきますわ。ね、お父様」
「そうだ、マリア。お小遣いが足りないんじゃないのか?」
「…え?」
「うん、なにも言わなくてよろしい。父はわかっているぞ。お小遣いをあげよう。だから、ヒントだけでも…」
「お父様!」
お父様ったら、本当に愉快なんだから。
丁度食事が終わったので、マリアは立ち上がってメルメ1世の後ろにくるっと回り、首に手を回して体を預けた。
「お父様。マリアはきちんとお約束を守ります。お小遣いもちゃんと持っております。ね?だから、聞かないで下さいませ」
「分かってるよ、マリア」
メルメ1世はマリアの手を軽く握って笑った。
「やっぱり娘は可愛いなあ。セルジオだったらここまで来るまでに、怒って部屋から駆け出して行ってるところだ」
「お父様がからかうから、いけないんですわ」
「でも、マリアにこうやって甘えてもらえるんだったら悪くないよ」
「お父様ったら!」
メルメ1世は、マリアの方に顔を向けた。
「さ、時間は今日1日しかないよ。行っておいで、私の可愛い不良娘」
「ええ、行ってまいります、大好きなお父様」
さて。
街娘の服装をし、ちゃんと金貨の入った袋も持ったマリアは城門から出、一路城下町に向かった。
「お休みの日」の始まり。