「そうなの?あたしが?」
「当たり前だろ。王の奥さんは、王妃だって」
「…もっといいとこのお嬢さんもらうんだと思ってた」
「冗談じゃない。俺はもう妻帯してるんだからな」
「だってさ、王様っていっぱい奥さんいるじゃない」
「サゼスの悪癖を受け継ぐつもりはないよ。確かに王家の存続と言う意味では、子供が沢山居たほうがいいだろうし、従って妻は多い方が効率もいいし、子供が生まれる可能性も高い。でも、何も自分の子供じゃなきゃ王家を継いじゃいけないってのはないと思うからね。俺の妻は一人でいいし、ネーナがいい」
「ふーん…」
ネーナはちょっと嬉しそうな顔をして立ち上がり、夫に後ろから抱きついた。
「ちゃんと考えてるじゃん、フェバート」
「…?」
「自分が王様になったらどうしたいか、ちゃんと考えてるじゃん。
王様の奥さんは、1人でいいんでしょ?」
「うん」
「きっとその他にもいっぱい考えてるのよね、フェバートは。あとは決心が足りないだけなのよ」
「…じゃあさ、ネーナ」
背中にネーナの快い重みを感じながら、フェバートは尋ねてみた。
「ネーナが王妃になったら、何がしたい?」
「あたしが王妃になったら?」
ネーナはしばらく考え、そしてとびきり嬉しそうに言った。
「パイを焼くわ!」
「は?」
フェバートは聞き間違えたかと思い、ネーナの手をほどいて向かい合った。
「パイを焼くのよ。あたしのパイ作りの腕は知ってるでしょう?でも今、材料は高くて仕方がないから…。フェバートが王様になったら、きっとパイの材料も安く手に入るでしょう?そしたらあたし、おやつにパイを焼くんだよー」
「…」
歌うように嬉しそうに言われてしまった。
フェバートはこの瞬間、ネーナが愛しくて仕方がなかった。「王妃になれるけど、そしたら何がしたい?」と訊かれて「パイが焼きたい」と真っ先に答える女はそうそう居まい。
ついでに思いっきり笑ってしまった。
「何よー、フェバート。あたし、なんかおかしなこと言った?ちょっと、笑ってないで答えなさいようっ」
「いや…ネーナは可愛い。可愛いよ、フハハハハ」
「バカにしてるでしょっ!」
「してない。ほんとにしてない。可愛いってば、ネーナさん。ハハハハハ」
ぎゅうっと抱き寄せて頭を撫でる。
「むー。ごまかされないんだからねっ」
「相変わらずすぐムキになるなあ。まあまあ、そう怒らないで。俺、王になるから」
「ほんと!?」
「うん。ネーナみたいなおもしろ、いや素敵な女性を妻に持った以上、王にならなきゃいけないってことがわかった。パイ、焼いてくれるんだろ?」
「うん。焼くわよ。あたしと、フェバートと、あたしたちの子供の分」
「まだいないだろ」
「あなたが王になるころには、出てきてるわよ」
「えっ!?」
月並みだが、フェバートは二の句がつげなかった。
「ね…ネーナさん…それはつまり…」
「もうこの中には、いるよ」
ネーナは自分の下腹を指してにっこり笑った。
「聞いてないよ!」
「今言ったよ」
「そ、そうじゃないだろ!?」
「まあまあ。いいじゃないの。王になるころには王子か王女か出来てるんだからさ。みんなもそれを知ったからこそ、余計にあなたに王になることを勧めてるんだし」
「…そういうことか…」
どうりでここ数日、仲間から勧められる頻度が上がったわけだ…。全くみんな知ってたのなら早く言ってくれればいいものを…寿命が確実に縮んだ。
「まあそんなわけで子供も産まれることだしさ。革命後の職業が早めに決まってることにこしたことはないのよ。喰いはぐったら困るから。王になってくれるんだね、ありがとう」
「…地に足のついた意見をありがとう」
「がんばれ、フェバート」
ネーナは、とびきり素敵に笑ってみせた。
〜風変わりな王妃 完〜
☆あとがき☆
2000hitありがとうおめでとう♪ってなことで、瑞樹さんから頂いたリクエストでした。
「マリア&セルジオ」か、「パパさん(メルメ1世)の若い頃」ってことで…。作品自体は大分前に出来上がっていたのですが、第二の王女完結までのっけられなかったのでした。
で、 何となくパパさんの奥さんのネーナさんが書きたくなったので、こんなん書いてみました。なんか可愛いでしょ、この人。セルジオ君は絶対おかーさん似なのです。
まあ、そんなわけで随分遅くなりましたが、この話(というかエピソードというか…)は、瑞樹さんに捧げます。2000hitありがとーっ♪
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