ウィルのケース(恋愛初期)

 

 ウィルのケース

 一目惚れ、以上。というのが彼のケースだった。
 「ウィルがフィリスを好きっていうのはすぐ分かるな」
 同じパーティのエスターにはそう言ってうなずかれる。
 「別に隠してないからね。でもフィリスちゃんにちゃんとつたわってるのかなあ?」
 「分かってて無視してる…ってことはないと思うけど」
 「そうかなあ。じゃあ、あっちは俺のことどう思ってると思う?」
 「…難しいな」
 まだパーティを組んでから1ヶ月あまりしか経っていない。
 それでもウィルは精いっぱい努力してきたつもりだ。
 魔物が出れば真っ先にフィリスをかばい、宝物を見つければフィリスに譲り、野営となればフィリスを守り、町に着けば荷物持ちとして買い物についてゆく。
 …涙ぐましい努力である。
 それでも相手のフィリスがどう思っているのかは分からないのだ。
 「はっきり好きって言ってみれば?」
 「断られたらもう一緒にパーティにいられないじゃん」
 「…確かに」
 「エッちゃんはいいよなー。もう奥さんいるもんな」
 「ああ。リズと僕は愛し合ってるよ。結婚ていうのはいいものだ」
 ウィルは内心、この話をふらなきゃよかった、と思った。エスターは極度の愛妻家で、最愛の妻リズの話を始めるとキリがないのだ。
 「ウィルも早く結婚するといい」
 「…俺、それ以前の問題なんだけど」
 「…それもそうか。フィリスもああみえて鈍そうだからなー」
 「だから俺の気持ち、気がついてないのかな」
 「かもな」
 「どうやったら気がついて貰えると思う?」
 「言うしかないだろ。言葉にしないと分からないものだ」
 「そんなー!俺こんなに尽くしてるのに!」
 ウィルはベッドに思いっきり寝転がった。
 「大体、フィリスのどこがそんなに好きなのさ?」
 「可愛いじゃん。すごく」
 エスターはため息をつく。
 「黙って立ってればな」
 「いいんだよ!性格悪いところも!」
 ひりすのひは卑劣の「ひ」。
 ひりすのりは理不尽の「り」。
 と、言われてはいる。
 しかしそれがなんだというのだ?あれだけ可愛ければいいじゃないか。
 ゆるく波打つ金髪の髪。エルフにしてはやや小柄で、華奢な体。蒼い目には、確実に魔力ほどの魅力が宿っている。
 まさに「恋は盲目」を地でいっている状態のウィルだった。
 「ウィルはフィリスなら何でもいいんだな」
 妙に感慨深そうにエスターが言う。
 「んじゃあ、フィリスが他の男を好きになったらどうする?」
 「…困る」
 「困るって、そりゃそうだろうけど」
 「他に好きなやついるのかなあ…?」
 「別にいないと思うけど。強いて言うならお兄さん達に溺愛されて育ったらしいから、ブラザーコンプレックスはあるんじゃないか?」 
 「どんなお兄さんだったのかな?」
 「さあ。話を聞くと背が高くてかっこよくて頭が良くて…と結構揃っていたらしいけどね」
 「…俺よりよっぽどいい男ってこと?」
 「そうとは言わないけどさ。
 じゃあ逆に聞くと、フィリスがウィルのこと好きかも…って思ったことは?」
 ぐ、とウィルは答えに詰まった。
 「…戦闘の時、真っ先に俺に援護魔法かけてくれた」
 かろうじて出たのがそんなことである。
 「…そりゃあお前が前に出て戦ってるからだろ」
 「そんなことないっ。…あ、あと街で2人で歩いてるよ。しかも向こうが誘ってくれたこともある」
 「…荷物持ち…」
 「…」
 「まあほらなんだ、少なくとも嫌われてはいないってことか」
 「だろ?」
 「んじゃあ当分は尽くし生活か」
 「イヤな言い方だな」
 「それ以外にどう言えというんだ」
 「希望生活」
 「…なんだそりゃ」
 「いつか振り向いてくれるかもという希望を持ちつつ、努力を怠らない」
 「物は言いようだな」
 「何でもいいんだよ!もうフィリスちゃんすげー好き!!可愛い!!!」
 やけっぱちのようにウィルは叫んだ。
 「ばかっ、お前。フィリスは隣の部屋にいるんだぞ。聞こえててもいいのか!?」
 「げっ…」
 ウィルはおそるおそるベッドから立ち上がり、しばらく様子をうかがった。
 隣は静かなままだ。
 ため息をつきつつ、ウィルはドアに向かった。
 「聞こえてないといいな」
 エスターが少し嬉しそうに言った。

 

ドアを開ける

ドアを開ける前に、フィリスのケースを見てみる
(注:読まないでドアを開けても話はつながりますよ♪)